学生達の印象に残った万葉歌（平成20年度）
平成２０年度の日本文学基礎講読１は『万葉集』を読みました。その期末レポートの一部として、「この授業で取上げた歌の中から最も印象に残ったものを１首選び、その歌のどういう点が印象に残ったのか書きなさい。」という問題を出しました。その結果をご披露します。
毎年同じことを聞いていますが、第１位の「籠もよ み籠持ち」は不動の１位です。理由は例年と同じく、この授業で扱った最初の歌が１番歌で、語釈や訓読をかなり詳細に説明しましたので、それで「高校までの授業と全然違う」という意味で「最も印象に残った」ということのようです。
第２位のうちの「冬こもり 春さり来れば」は例年よりもかなり高いランクです。第２位のもう１首「夏の野の繁みに咲ける姫百合」は毎年高ランクです。
１票だけの歌の中にある、
1431「百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも」
2581「言に言へば耳にたやすし少なくも心のうちに我が思はなくに」
の２首は、「居之鶯 鳴尓鶏鵡鴨」「三々二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二」という原文表記に興味を惹かれたのだそうです。
文字表記にも関心を持ってくれた学生がいたのは嬉しいことです。
順位 票数 番号 歌 作者 1 ５ 1 籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に 菜摘ます児 家告らせ 名告らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居れ しきなべて われこそ居れ
われにこそは 告らめ 家をも名をも雄略天皇 2 ４ 16 冬こもり 春さり来れば 鳴かずありし 鳥も来鳴きぬ 咲かずありし 花も咲けれど
山を茂み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては
黄葉をば 取りてぞ偲ふ 青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山吾は額田王 2 ４ 1500 夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ 大伴坂上郎女 4 ３ 115 後れゐて恋ひつつあらずは追ひ及かむ道の阿廻に標結へわが背 但馬皇女 4 ３ 1411 福のいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く 作者不明 4 ３ 3724 君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも 狭野弟上娘子 7 １ 27 よき人のよしとよく見てよしと言ひし芳野よく見よよき人よく見 天武天皇 7 １ 116 人言を繁み言痛み己が世に未だ渡らぬ朝川渡る 但馬皇女 7 １ 203 降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに 穂積皇子 7 １ 1412 我が背子を何処行かめとさき竹の背向に寝しく今し悔しも 作者不明 7 １ 1431 百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも 山部赤人 7 １ 1538 萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花 山上憶良 7 １ 1658 わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし 光明皇后 7 １ 2104 朝顔は朝露負ひて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけり 作者不明 7 １ 2581 言に言へば耳にたやすし少なくも心のうちに我が思はなくに 作者不明 7 １ 2589 相思はず君はあるらしぬばたまの夢にも見えず祈誓ひて寝れど 作者不明 7 １ 2802 あしひきの山鳥の尾のしだりをの長々し夜をひとりかも寝む（或本歌） 作者不明 7 １ 3108 うつせみの人目繁けばぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ 作者不明 7 １ 3249 磯城島の日本の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ 作者不明 7 １ 3317 馬買はば妹歩行ならむよしゑやし石は履むとも吾は二人行かむ 作者不明 7 １ 3667 わが旅は久しくあらしこの吾が着る妹が衣の垢づく見れば 遣新羅使人 7 １ 3774 わが背子が帰り来まさむ時の為命残さむ忘れたまふな 狭野弟上娘子 7 １ 3853 石麻呂にわれ物申す夏痩せに良しといふ物そ鰻取り食せ 大伴家持 7 １ 3900 織女し船乗りすらし真澄鏡清き月夜に雲立ち渡る 大伴家持 7 １ 3983 あしひきの山も近きを霍公鳥月立つまでに何か来鳴かぬ 大伴家持 7 １ 4144 燕来る時になりぬと雁がねは本郷思ひつつ雲隠り鳴く 大伴家持 7 １ 4516 新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事 大伴家持