万葉恋歌選
◎万葉集の恋の歌の中から、私の好きな歌を選んでみました。部立は必ずしも相聞歌には限らず、挽歌も含まれます。
Ａ．恋心
- 人言を繁み言痛み己が世に未だ渡らぬ朝川渡る(2-116) 但馬皇女
- 夢の逢ひは苦しかりけり覚きてかき探れども手にも触れねば(4-741) 大伴家持
- 夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ(8-1500) 大伴坂上郎女
- 磯城島の日本の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ(13-3249) 作者不明
- 多摩川に曝す手作さらさらに何そこの児のここだ愛しき(14-3373) 東歌（武蔵）
- 信濃なる筑摩の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ(14-3400) 東歌（信濃）
- 君がため手力疲れ織りたる衣ぞ春さらばいかなる色に摺りてば好けむ(7-1281) 柿本人麻呂歌集
- わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし(8-1658) 光明皇后
- 思はぬに到らば妹が嬉しみと笑まむ眉引き思ほゆるかも(11-2546) 作者不明
- 馬買はば妹歩行ならむよしゑやし石は履むとも吾は二人行かむ(13-3317) 作者不明
- 信濃道は今の墾道刈株に足踏ましなむ履着けわが背(14-3399) 東歌（信濃）
- 草枕旅行く君を人目多み袖振らずしてあまた悔しも(12-3184) 作者不明
- 君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも(15-3724) 狭野弟上娘子
- 畏みと告らずありしをみ越路の手向に立ちて妹が名告りつ(15-3730) 中臣宅守
- 帰りける人来れりといひしかばほとほと死にき君かと思ひて(15-3772) 狭野弟上娘子
- わが背子が帰り来まさむ時の為命残さむ忘れたまふな(15-3774) 狭野弟上娘子
- 吾等旅は旅と思ほど家にして子持ち痩すらむわが妻かなしも(20-4343) 玉作部広目／駿河防人
- 蘆垣の隈処に立ちて吾妹子が袖もしほほに泣きしそ思はゆ(20-4357) 刑部千国／上総防人
- 色深く背なが衣は染めましを御坂たばらばま清かに見む(20-4424) 物部刀自売／武蔵防人妻
- 防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさ物思もせず(20-4425) 防人妻（昔年）
- 降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに(2-203) 穂積皇子
- 悔しかもかく知らませばあをによし国内ことごと見せましものを(5-797) 山上憶良
- 妹が見し楝の花は散りぬべしわが泣く涙いまだ干なくに(5-798) 山上憶良
- 福のいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く(7-1411) 作者不明